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初めての東京出張
商売を始めてまもないころ、幸之助は当時つくっていた二灯用差し込みプラグを東京でも売りたいと考えた。そこで、それまで一度も行ったことのない東京へ出かけ、地図を片手に一日中問屋をめぐり歩いた。初めて訪問する問屋で、大阪から持ってきた商品を見てもらう。「いかがでしょうか。売っていただきたいのですが」問屋は商品を手にし、それをためつすがめつじっくりと調べてから、幸之助の顔を見て言った。「きみ、これはいくらで売るのかね」「原価が二十銭かかっていますので、二十五銭で買っていただきたいのです」「二十五銭か。それなら別に高くはない。高くはないけれども、きみは東京で初めて売り出すのだろう。そうであれば、やはり少しは勉強しなければならないよ。二十三銭にしたまえ」こう言われて幸之助は、東京での販路をぜひ開拓したいし、初めて東京に売りに来たことでもある。だから、この要望にこたえよう”と思った。しかしつぎの瞬間、そうさせないものが心に働いて、こう答えていた。

「原価は二十銭ですから、二十三銭にできないことはありません。しかし、ご主人、この商品は私を含めて従業員がほんとうに朝から晩まで熱心に働いてつくったものです。原価も決して高くついていません。むしろ世間一般に比べれば相当安いはずです。ですから、二十五銭という価格も決して高くはない、むしろ安いと思うのです。もちろん、ご主人が見られて、この商品は値段が高いから売れないだろうと考えられるのであれば、それはしかたがありません。しかし、そうではなくて、これで売れると思われるのであれば、どうかこの値段でお買いあげください」じっと聞いていた問屋の主人は、「よしわかった、きみがそこまで考えているのなら、二十五銭で買うことにしよう。もちろんこの値段は高くはない。これで十分売れると思う」と言って、持っていった商品を値引きなしの言い値で買ってくれた。

昭和三十三年ごろのことである。経営状況の報告のために本社に呼ばれた扇風機事業部長は、幸之助に、「先月の決算はどうか」ときかれ、胸を張って答えた。「赤字です」当時、扇風機は夏物季節商品の中心で、生産は年中行なっているが、出荷は三月ごろの年一回で、売上げの最盛期は六月から七月であった。したがって、出荷も売上げもない月は赤字で当然と考えていたのであった。しかし、その言葉を聞いた幸之助の目が光った。「きみ、赤字とはたいへんなことやな」事業部長を真正面から見据えて、幸之助は言った。「きみはここに来るまで、どの道を歩いてきた。小さくなって、すみのすみを歩いてきただろうな」道は税金でつくられた公道である。赤字を出している事業部長は、道を通るにも通り方がある、身を縮めて通れというわけである。

「赤字についての感覚を、このときほど深めたことはありませんでした。扇風機という季節商品だけでは事業は成り立たない、年中売れる商品を考えなければならないという課題を与えられたのだと、私はそのとき考えました」それからまもなく、事業部長は、年中商品として換気扇の開発に着手した。第二次世界大戦が終わった直後のこと。松下グループのある会社社長は、戦時中に陸軍や海軍に納入した商品の売掛金が回収できず、毎日資金繰りに追われていた。社員への給料も月四回に分割せざるを得ない状態で、一般株主には配当金を払ったが、大株主・幸之助への配当は待ってもらっていた。

新しい年の一月二日、兵庫県宝塚の旅館にいた幸之助から電話がかかった。正月早々のことでもあり、「いっしょに飲もう」という誘いかと思いつつ受話器を取ると、「すぐにここへ来るように」とのきつい言葉である。〃何かあったのかな”と考えても、思いあたるふしはない。ともかくも急いで駆けつけた。「きみ、なんで株主の私に配当金を支払わんのや。その責任はもっぱら社長であるきみにあるぞ。そんなことでは社長は務まらん」「軍が金を払ってくれないんです」「それは社員の言う理屈や。社長というものを何と心得とるのか」確かに、幸之助は身内でぼあっても、株主であることに変わりはないし、株主に配当を支払う責任は自分にあった。思いつめて、枝ぶりのよい松でもあったらと思うほどの心境で帰路についた社長は、帰宅してから気づいた。



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